「デトロイトメタルシティ」「ヨイコノミライ」でトーク vol.2

http://d.hatena.ne.jp/culcom/20061126#1164557402
前回(↑)のつづきです。前回の後半で登場したid:inumashさんが、音楽に関する深い造詣を披露。
http://d.hatena.ne.jp/inumash/20060827/p1
も読んでおくと、より楽しめると思いますよ!!


トーク参加者の紹介(間が空いてしまったので再び)

Masaoキールterasuyinumash
Ryota似非原republic下向き
イズミ:学生。教員志望。音楽、特にメタルへの造詣が深い。


本編

inumash:前提として、デスメタルってのはなにかってトコから話します。DMCって結構渋谷系へのルサンチマンの漫画だって見られてるんですけど、僕は実は全方位へのルサンチマンじゃないかと思ってるんですよ。単純なお洒落に対するルサンチマンだけじゃなくて、ルサンチマンを抱いている自分に対しても、結構バカにしてるんじゃないかと。で、その象徴がたぶん資本主義のブタだと思うんですよ。
資本主義のブタって、ステージの上ですっごい叩かれるじゃないですか。ステージの上限定のヒエラルキーでいうと、トップにDMCのバンドがいて、実はその裏に社長がいるんだけど。で、その下にファンが居て、(ステージ上ヒエラルキーの)外部にそれを貶めるモノとして世の中でお洒落と言われているような文化があって、でも一番下にいるのは、あの空間の中だけでいうとやっぱり資本主義のブタですよ。
でも資本主義のブタって、クラウザーさんを崇拝していて、クラウザーさんに何かしてもらって喜ぶっていう構図ができている。それって、DMCのバンドとそれを取り巻くファンの構図と、まったく同じなんですよ。ファンは資本主義のブタを結構バカにしているんだけど、実は資本主義のブタはファン自体の鏡である。
で、実は資本主義のブタっていうのは自分の生活をキチンと持っていて、自分は仕事だからやっているんだよというのをある種自覚しているわけじゃないですか。そこの世界を外れても自分の世界を持っているという意味で、実は資本主義のブタは、最下層ではないんですよ。
でも、DMCのファンはそうじゃなくて。彼等の実際の生活って、あんまり描かれていないですよね。確か2巻のエピソードで出てきたヒーロー物のバイトしてるっていう設定のファン。あのファンって典型で、DMCのライブに行きたいから俺はここで働いているんだって言ってるじゃないですか。その辺が結構明確に(資本主義のブタとファンは)違うのかな、と思っていて。そのひとつのサブカルコミュニティの中で、ファンはその「カルチャー」について解ってるつもりなんだけど、いやお前等「構図」解ってねぇだろっていう、そういうシニカルな視点が作者にはあるんじゃないかと。

Ryotaサブカルコミュニティ全体へのシニカルな視点?

キール:だから社長あんなに強いんだ(笑)。

inumash:社長はそのサブカルコミュニティのそう……なんというか神みたいな存在で、その人全部わかってるわけです。権力もあるし、実力もあってトップに君臨してるんだけど、前面に出てこないし、出てくる必要もない。世界を構築している存在だから。作者は全方位に向かって悪意を振り撒いているから、デスメタルを確かにバカにしてるんだけど、だけど(デスメタルの人から見ても)笑えるじゃないですか。渋谷系の人達も、自分たちがバカにされているけど笑える。ヒップホップやパンクの人出てたけど、アレもたぶん同じ構図。
で、全部ニセモノじゃないですか、アレ。DMC渋谷系もヒップホップもパンクも全部。そういうニセモノを崇拝しているコミュニティに冷めた視線を送っているっていうのが、作者の共通した視線だと思うんです。ニセモノ信者同士がぶつかってギャーギャーやってるんだけど、僕等はその外部にいるから、冷めた視点で笑える。だから敵を産まないんじゃないか。

キール:すべてのカルチャーに対して言えることですよね。オタクカルチャーにしてもなんにしても。

inumash:前にチラッと書いたんだけど、渋谷系……お洒落なモノに対するルサンチマンだけでDMCを語るのは、それは本質とは違うんじゃないかな。

Masao:確かに2巻から、渋谷系あんまり出てこなくなりますもんね。

inumash:そう。で、デスメタルっていま一番陳腐化してる音楽なんです。なんでかっていうと……もともと自分たちの鬱屈した感情とか社会に対する悪意とかを正当化するために悪魔っていうのを持ち出していたわけです、デスメタルの人達は。でも、たとえば90年代末にニルヴァーナが出てきてオルタナティブエクスプロージョンが起こって、そういうネガティブな感情をストレートに吐き出すと言う表現形態自体が肯定されたんですね。で、その後ギャングスタとかハードコアラップが流行って、直接的な暴力を歌うことも、もう肯定されてるんですよ。だからわざわざ悪魔を呼び出さなくても、自分のネガティブな感情は吐露できるし、暴力衝動をそのまま発散するっていうことも、実は受け入れられてるんですね。なんで、「なんで悪魔を崇拝するのか?」っていう理由が、いまは一切ないんです。悪魔は殺されちゃったんです。ニーチェじゃないけど(笑)*1
でもなんで悪魔を崇拝してるかっていうと、それだけ閉じたコミュニティの中でそのコミュニティを成立させるための手段のひとつにしか過ぎない。そういう構造が見えてるから、僕等はたぶん笑えるんですよ。

キール:あぁ、裏側を見てるって、結構思いますもんね。

inumash:(DMCで登場する)コミュニティで起きていることは、絶対自分には向けられないじゃないですか。そこまで実体化された中に僕達はいるわけじゃないから。外部に居る安心感があるから、僕達は初めて安心して笑えるんですよ。

Masao:全部のジャンルでシンボルが出てきますもんね。パンクのときはシド・ヴィシャスがずっと出てきてたし。

inumash:で、ラップのプロフィールも人も典型じゃないですか。ニューヨークに産まれて……だし。

キール:その構図だとアレですよね。ツンデレの構図と同じですよね。観客の側から見れば彼女のツンの部分もデレの部分もわかっていて、本音の部分もわかっているから楽しめるし、彼女のツンの部分がこっちに向かってこないから、安心して楽しめるというか。

Masao:読者は神の視点を持っているっていう。

キール;リアルなツンデレなんて相手にするとたまったもんじゃないですから。

inumash:たぶん、読者の視点て社長の視点なんですよね。神の。価値観は別にして。

似非原:でも、社長もニセモノくさくない?一応カネ持ってて、一応権力者みたいにやってるけど、なんていうのかな……「げんしけん」をダシにして言うと、会長みたいな立場ですよね。会長が会長として振舞えるのは、そのコミュニティの中だけなんですよ。
(考え込みながら)だからシャチョー〜……社長をどう考えるかっていうのは難しい問題ではあるんですけど、2つパターンがあって、社長もやっぱりニセモノだっていうのと、社長はなんだかんだ言って全部のところでああいうことしてるから、ああいうふうにならざるを得ないっていう。だから、「ホンモノだから」「ニセモノだから」っていうのがあって、どっちがいいかは判らないけども、そういう考え方はできるっていうのはあって……。
ただ、リアリティっていうか、コレを読んでる人からすると、なんていうかな、「ニセモノ」っぽいほうが多い。うん。

inumash:でも、じゃあニセモノがいけないかって言ったら、そうでもないわけじゃないですか。

似非原:あー、そう。そうでもない。そうそうそうそう。

inumash:結構ほら、DMCで共通して出てくるエピソードで「産まれてすぐ殺してくれ」とかあるじゃないですか。そういうのって音楽の世界でもそうなんですけど、結構ザラにあるニセモノエピソードなわけじゃないですか。一番北端にあるのがデスメタルの悪魔とかであるだけで、例えば12歳でどこかのコンクールで優勝したとか、誰かに認められたとか、ニセモノエピソードがあったりとか

republic:外国人レスラーのプロフィールみたいな話ですね。

inumash:そうそうそう、だからそういうのに共通する、なにかニセモノを作り出す構図みたいのがあって、その構図を僕等は知っているから、そこでDMCっていう過剰なモノが出てきたときに、「あ、なるほど」って笑えるんだと思うんですよ。

似非原:あとDMCは、内面を描いてないじゃない?さっき言ったのは「ヨイコノミライ」にも当てはまって、無理矢理繋げるんですけども、同じなんだけども「ヨイコノミライ」は内面を描こうとするから痛くなる。DMCの場合、それはギャグ漫画の作法でもあるんだけど、内面を描こうとかいうわけではないので、うん、そんなには痛くはない。

inumash:でも実際、DMCの信者みたいな人達っているわけじゃないですか。この人達も実は内面があるんだけど、そういうのを掘り下げていくと、たぶんビジュアル系のファン特集みたいになって、正直言って僕等は直視できないものになるわけですよ。痛いから。たぶんそれをやったのが「ヨイコノミライ」で、そこまで絶対踏み込まないのがDMCじゃないのかな。

キール:確かに「ヨイコノミライ」はなんというか……頭空っぽにして消費はできないんですよね。ハッキリ言って。

inumash:絶対なんか自分たちの過去の記憶が(キャラの)内面に結びつくじゃないですか結びつくじゃないですか。

キールDMCはホントに「あー、バカだな。おかしいな」って消費できるけど。

似非原:あ、ソレはね。もうひとつあって……DMCは、コミュニティはコミュニティで、こいつら幸せだからいいじゃんみたいなところがあるじゃないですか。で、ヨイコノミライを見て思い出すのは、これはある意味ね「オタクを嫌悪するオタク」の欲望の物語だったりするわけなんです。要するに、「オタクってキモいよね」と言うことでアイデンティティを保とうとするオタクっていうのが存在してて、俺なんかは(自分が)そうだったからわかるんですけど。

inumash:ある腐女子のサイトを運営する腐女子が「腐女子って、自分より下のモノを見つけて見下すから嫌い」って書いてたんですよ。それにブクマした人が「これは優越感ゲームを楽しみたい人の典型だ」と書いていたんです。だからソレはたぶん、「オタクは」っていうよりも、そういう優越感ゲームを楽しみたい人は音楽の世界にもいるし、スポーツの世界にもいるし、もっと別のコミュニティにもいるし……横の線としてどういう切り口をするのかっていうところで変わってくるのかと。

republic:アレですよ。体育会はいつも大会とかあって、序列が決まるんだけど、文化系はは大会がないので、結局その……なんらかの方法でランク付けをせざるを得ない。

inumash:数値化できないのが、たぶん痛いですよね。たとえばアレ……アジカンか。アジカンが部活かなんかで結成してデビューしたんだけど、そこに対するやっかみっていうのが、やっぱり凄いあるらしいんですよ。「あんなの、UKのロックのパクリじゃん」みたいな。
メジャーデビューっていうのは一種の「あがり」なんだけど、それを素直に評価できない人達っていうのはやっぱりいるんで。でもそれが、たとえば100Mを9秒で走るとかちゃんとした評価基準があると、違うと思うんですね。たとえば「100万枚売れた音楽は絶対に良い音楽だ」みたいな評価基準。でもそれがないから。「100万枚売れてても、俺は認めない」っていうのが出てきちゃうんで。

terasuy:オタクのアイテムってのは、ホントに評価が難しいですよ。特に、ライトノベルとかあるじゃないですか。今もあまり上手いとは言えないような文章で刊行されてる作品がありますけど、ホントに「こんなの俺でも書けるよ」っていう人が、意外と多いと思うんですよね。同人書いてる人とか。でも、そういう人達のランク付けってできないじゃないですか。メジャーに行けば、売り上げとかアニメ化とかしただけで、それなりの位置に行くことができますけど、でも同人の人達って「自分の作品のほうが売れる、でも順位付けできない」みたいになって、そうするとコミュニティの中で内面をえぐり合うしか手段がないのかなっていう。

キール:あー、衣笠と桂坂だよ!オタク作品に触れてるけど、「君のは下劣だよね」みたいな。

似非原:これ、構造として僕が面白いと思うのは、文学青年のアレですよ、代理戦争なんですよ。要するに商業主義と芸術主義が対立してて、この話もそうなんですよ。「G線上ヘブンズドア」っていうのもあるし、もっというと平野耕太の「大同人物語」っていうのもある。大体は商業主義といかに闘うかっていうのがあって……

inumash:でもそれはもっと大きいところから見ると、実は商業主義に絡め取られているところもあって……例えばマッチポンプって言葉があるわけじゃないですか。特に音楽業界でよく使われるのが、誰かと誰かという対立構造をつくってシーン自体を盛り上げている。
DMCにも「シーンで一番ヤバイ奴は誰だ」って書いてあって思ったんですけど。じゃあ誰が一番得するって言ったら、実はこれを動かしている社長なわけですね。まぁ社長本人というか、業界の人たち。(DMCとか鬼牙とか)当人からしてみたら、この人たちと絡む必要はないんですよ、本来なら。だって、全然文脈が違うわけだから。そこで並べられる必要はないんだけど、並べられてしまう。で、それによって得をするのは誰かって言うと、確かに観客は面白いから喜ぶんだけど、実は業界の人達……レコード会社の人達にお金が入っていく。
で、負けた人たちっていうのは、以降出て来ないですよね。使い捨てられるわけですよ。勝った人だけが、利益の一部だけを吸収することができる。そういう構造が日本の商社にもあるわけだし、ラノベとか同人業界にもあるのかも知れない。

キール:その両者の間で繋がっていることは、狭いんだよね、とにかく。とにかく狭くって、普通の人っていうかカタギの人からすれば、「なんでそんなことでこだわってるの?」みたいのが、たぶんどっちにもあるっていうか。ヨイコノミライにしても、自覚してるオタと無自覚なオタっていうか、なんというかくだらん内ゲバというか、まぁどっちもオタじゃんっていう話になるし……

inumash:落ちたところがすっごい曖昧なところに落ちた気しません?

似非原:んーだからね、なんていうか俺ね、「ヨイコ」のアレとかね、ちょっとヤバイと思うんですよ。ヤバイというか俺ね、気持ち悪さを感じてて、肯定しちゃいけないと思うんですよ。肯定というか、「みんな一緒だよ」って終わるじゃないですか。すっごい気持ち悪いと思って、正直それは。

inumash:断絶が描かれていない?

似非原:断絶っていうかね、なんて言ったらいいのかな、ある意味全脳感の物語なんですよ。みんな全脳感を持ちたがってて、全脳感同士がぶつかり合うとどっちが支配するかっていう物語になっっちゃうわけですよ、どうしても。それは矯正されないといけないんですよ。どこか。

Masao:でも、それの暗黒面におっこちちゃったのが……なんでしたっけ、眉毛のぶっとい女の子……平松さん?それはちゃんと描かれてるんじゃないですかね?

terasuy:最終的にはいくつかのパターンに分かれましたよね。

inumash:アレってでも、全脳感の内面化ってこと?

Masao:もう……そういうことですね。外に行けなくなって、自分の中の世界に引きこもるしかなくなっちゃった。

terasuy:妄想に浸っちゃった。

republic:でも、あのデブの娘が……

terasuy:脱出できたんですよね、あのコミュニティから。

republic:そう。それを肯定して終わりの話なんじゃないんですかね?

Masao:んー、そういうのも見せつつも、駄目なヤツは駄目っていう。

下向き:要するに、救われるヤツと駄目なヤツのパターンを、包括的に描き出した。

republic:でもこんな……ヤバイ人達が集まってるサークルは……ねーじゃんみたいなところは(笑)

キール:だから、その人達をギュッと集めたのが、「ヨイコノミライ」ですから(笑)。

inumash:じゃあ、ソレを薄くしたのが「げんしけん」?

terasuy:でも、向かう方向が違うじゃないですか、「げんしけん」の場合やっぱり。

inumash:でもホラ、「げんしけん」の場合ずっと「ヌルいオタクの物語」って言われてるじゃないですか。でも「ヨイコノミライ」の場合、「ヌルいオタクの物語」かって言われたら、微妙な感じしますよね?「ヌルくねーだろ!」っていう。

(この発言で場が騒然となる)「え−、それは結局内面の……」「ヌルくない……のかな?」「いや、それは……」

似非原:ヌルい……と思うよ。俺は。

republic:ヌルいんじゃないかなぁ?

terasuy:ヌルいですよね?だって、初めから言ってるじゃないですか、「消費者にしかなれないのよ」みたいな。

Masao:それは、ひらがな「おたく」とカタカナ「オタク」の違いじゃないですかね?みんなカタカナ「オタク」が出ていて、主人公の男の子(井之上君)だけは、ひらがな「おたく」っていう。

似非原:あ、そういうことか。

inumash:あぁ、確かに被りますよね主人公。ポジションが。

キール:そうなると、アレは例えば世代間闘争みたいのの比喩としても読める?

Masao:あぁ、そういうふうにも読めますね。言われてみれば。

キール:作者は年代から言って……ひらがな「おたく」?年代っていうかまぁ、マンガ描いてるからひらがな「おたく」のほうだろうし。

terasuy:基本的に、想定してる人を絶望に持っていくような描き方ですからね。どっちかっていうと、ひらがな「おたく」のほうになるんじゃないですかね?いまの(カタカナ)「オタク」っていうと、やっぱり消費じゃないですか。

似非原:そうかな〜?俺、絶望的ではないような気がするんだよなぁ……。何が最終的に勝つかっていうと、好きなことを好きって言った人が勝つってだけの話なんですよ。そこでくだらない優越感ゲームを持ち込んでるから、グダグダになっちゃうっていう。だからあの占い師の人(平松さん)だって、自分が占いが好きだからってトコから始まってるじゃないですか。でね、ああいうのって非常に困るんだよね、ホントはね。

inumash:でも「ヨイコノミライ」の物語って、ガジェットがオタクを使っているだけで、舞台とか描かれている物語って、結構普遍的なものだと思いませんか?

下向き:要はオタクっていうよりは、精神病理とか自己愛、自意識の問題っていうのを、オタクを通して描いている。

inumash:これを90年代前半まで持っていったりすると、「あすなろ白書」とかになったりするのかなっていう。

キール:「あすなろ白書」って、話覚えてないな……なんか、世界は全然反転しちゃってる気がするんだけど(笑)

inumash:でも、フォーマットは一緒かなって気はするんですよね。

似非原:で、アレを精神病院で描いたのがアレですよ。「勝手に改造」ですよ。アレの最終回っていうのは、「別の世界があって、そこでちゃんと関係性を作ろうね」っていう終わり方をしたじゃないですか。

下向き:アレ、最終回どういうふうに終わったんですか?

inumash:アレ、あの子達は実は全員病気で、病気のリハビリのために「トラウマ町」という架空の街を作って、自分達だけで生活していたっていう設定なんですよ。で、ラストは羽美ちゃんと改造がトラウマ町を出て新しい世界に旅立ち、チタン君だけが町に引きずり戻される。

似非原:そうそうそうそう、まったく同じだよね。チタン=平松さん。だけど、また覆しちゃうんですよね。単行本でまた最終回描くんですけど、そのときは、「幸せだったらべつにそのままでもいい」っていう。だからそこのところってなんていうか……ある意味ではリベラリズムで待つのか……僕は、ハッキリさせておいたほうがいいと思うんですよね、そこんところは。「そこのコミュニティだけでいいんだよ」っていうのは、僕は(そういう志向は)強くない……うん。

inumash:たとえば同じような話って、「DMC」でも描こうと思えば描けるじゃないですか。ちょっと前に話があった、世界大会みたいなネタ。アレに出る物語って今進んでないけど、でも実はアレって別な世界とぶつかって、もしかしたら自分が潰される可能性ってあるわけですよね。たとえばスウェーデンのなんとかってバンドがライバルとして描かれていたけど、アレにボロボロに負けることによって「DMC」って世界自体が崩れるってこともあるわけじゃないですか。で、初めてそこでクラウザーさんが本人に戻って再出発するっていう物語も、描こうと思えば描けますよ。でもギャグマンガだからたぶんそうはならなくて、コレは勝手なネタの予想なんですけど、実はそのスウェーデンのバンドもまったく同じで、実はフレンチポップがやりたいんだけど、(メタルを)やらされている(笑)で、セットの裏では意気投合して喜ぶんだけど、実際ステージの上ではボコボコにやり合うっていうのが一番ギャグマンガとしてはおもろいんじゃないかな〜と(笑)

似非原:え、だけど……このマンガっていうか……古谷実?あの人のマンガって、僕シガテラまでしか読んでなくていま一番新しく連載してるのはそこまで読んでないんですけど……古谷さんが決定的に失敗してるっていうかどうしても描けないものっていうのは、中間の物語なんですよ。要するに、そのコミュニティから脱退して新しいコミュニティに入る中間っていうのが、決定的に描けないんですよ、あの人は。そこが一番重要なんですよ、僕に言わせると!そこんとこの飛躍っていうのを肯定しちゃ絶対マズくて、そこが一番重要なのにも関わらずそこを飛ばしてしまうっていうのは、構造としてどうしてもある。マンガの構造として。

inumash:日本映画で、確かそういうのありましたよね。元オウムの子供たち……「カナリア」。アレがたぶん、ロードムービーの形を介した中間の物語なのかなっていう。なんて言いましたっけね、アレ?

キール:「ドカベン」は最初柔道やってて、その後野球行っちゃったんですけど、昔のマンガって結構そういうふうに「ポンポンポン」と移り変わっていく……スポーツにしてもギャグにしてもシリアスにしても。そこで挫折して次のトコ行く、みたいな。いまはそういうのって、あんま見ないというか。

inumash:なんか、その世界での否定が個人の全否定に直結している感は確かにあるかも知れない。

キール:そうですよね。だからその虚構を(どうやって)持たせるかで、ガチガチガチガチやってるっていう……

inumash:強度だけがひたすら高まっていくっていう……

似非原:んー、それはなんていうか……ある意味マンガの政治的な構造というか、特にギャグマンガがそうで、なんていうのかな、要するに構造がキッチリしちゃうとその構造から外に出られないっていうのがあって、それはなんにでも言えるんですけど……

キール:「ヨイコノミライ」の主人公というか、メガネ君の男の子。あの子がもしサッカー部を兼任しながらマンガ部にいたら、たぶんダルくなったらそのままサッカー部に行っちゃって、マネージャーの娘とよろしくやってるっていう可能性も描かれていたのかも知れないわけですよね。ヨイコノミライはみんな専業オタクなわけですよね。

Masao:んー、じゃあ瞬君や一輝君(衣笠兄弟)はどうなんですか?アレはいろんなトコに足突っ込んでいて、だからこそ健全な人間として描かれている。

terasuy:いや、一番まともな人間ですよ。

下向き:一輝君はまともだけど、瞬君はまともかっていうと、ちょっと(笑)

terasuy:(笑)でも瞬君て、一番まともに若者を描けていると思うんですよ、僕は。高校生って、こんなんじゃないですか。

キール:いや……俺、男子校だったからわかんねーよ(笑)女なんかいなかったから、みんなアレだよ?どうでもいいや、みたいな。なんか「女食えりゃいいや」みたいだから、なんかこう衣笠弟みたいに「同じ場所で女作っちゃいけないよ」みたいに考えていないというか。

似非原:それはサークルクラッシャーみたいな?

キール:衣笠弟は、たぶんサークルクラッシュ一度経験してると思うんだよね、あの人は。

terasuy:そこまで行間が読む……?(笑)

キール:だってそこまで行動を起こせるってことは……だってこの歳の男の子が、ねぇ?

inumash:いやあるよ、そういう高校。

下向き:自分の所属するコミュニティで恋愛しないっていう若い子は、割合多いと思う。

(つづく)

*1:偉大なる哲学者ニーチェは、「神は死んだ」と申しております。